“哲学のある映像文化を作りたい” 株式会社イグジットフィルム

[ Wheelchair Dance ]
 
シネマ(映画)表現に特化した映像制作を手がける株式会社イグジットフィルム。大企業から大使館まで幅広い制作を担いながら、その個性溢れる映像美で評価を集めています。
 
今回は、同社代表取締役の田村祥宏さんに取材を敢行。倉庫をイメージしたという神田のオフィスで、映像制作にかける想いを語ってくれました。
 
 
 
exitfilm-logo
 
株式会社イグジットフィルム
東京都千代田区神田多町2-9-12 2F
 
 
映像は色を見る仕事。あえて窓のないオフィスに
ーまずは、イグジットフィルムさんの事業についてお伺いしたいです。
 
株式会社イグジットフィルムは、映像制作会社です。クライアントワークとしては、大企業のCSR部門や新規事業部門、大使館、NPOや政府系の方とのお仕事をすることが大半です。様々な分野において“新しいこと”をやっている人が多いですね。
 
代表取締役の田村さん
 
映像作家として制作している部分も強いので、独自の作品づくりにも力を入れています。なので、そうした制作とクライアントワークで半々ぐらいの割合です。
 
[ RUN TOMORROW – LIVING WITH DEMENTIA ]
 
お客様から「こういう映像をやりたい」と言って来られることがあまりないんです。“どういうことで困っているのか”ということを持って来ていただいて、そこからプロジェクトについてゼロベースで考えていきます。極端な話だと「映像をやらなくてもいいのでは?」と提案をすることもあります。そういったお付き合いをさせていただいているので、お互いに信頼し合って仕事ができています。
 
[ KUROKAWA WONDERLAND ]
 
最近はクリエイティブディレクターという形でプロジェクトに参加することもあります。WEBを担当する人や音楽を作る人など、色んなクリエイターが参加するチームの指揮役というか。そういうときには作品の世界観を大事にしていて、きちんとストーリーを描くように心がけています。
 
ー大使館などとのお仕事は特殊にも思えますが、どういった繋がりから?
 
それは、僕が独立したきっかけとも関係していて。独立前に「フューチャーズ」という企業や民間・行政といったセクターを超えて様々な人たちが社会課題について考えるというプロジェクトがありました。その年はエイジングソサエティ(高齢化社会)についての話だったのですが、ブリティッシュ・カウンシル(イギリス政府による国際文化交流機関)主催だったんです。当時は全く人脈もなかったのですが、あそこで出会った人たちとの繋がりで、仕事の幅も広がっていきました。
 
ー独立前はどのように活動されていたのでしょうか。
 
一般の映像制作会社に所属していました。でも、当時は自分がカッコイイと思って作る映像を認めてもらえなかったんです。「そういうものは必要ない。数を量産して」という会社の方針だったので、自分のキャリアを考えたときに、独立したほうが良いと思いました。
 
ー独立後にすぐ事務所を構えられたんですか?
 
いえ、独立後しばらくは自宅で作業していました。忙しい時期は夜通し作業することもあったので、オフィスを外に構えてもしょうがないかなと思っていて。あと僕は仕事も趣味もどちらも映像制作なので、休みの日も何かしら映像を作っているんです。でも、さすがにスタッフを増やしたいということもあって、新しくオフィスを探しました。
 
天井高3mの倉庫をイメージしたオフィス 天井高3mの倉庫をイメージしたオフィス
 
自宅オフィスだと、スタッフ、特に女性のスタッフなどが加入したときに良くないなと(笑) それにお客様が来ることも増えてきたので、そういうときにもしっかりオフィスがあったほうが良いと思い、構えることに決めました。
 
ー社内のスタッフさんは何人いらっしゃるのでしょうか?
 
今は男性スタッフと自分の2人ですが、10月からイギリス人のスタッフが1人増えます。
 
ー暖かい照明とコンパクトさが特徴的なオフィスですが、セレクトの理由は?
 
オフィスを選ぶとき、最初は日当たりの良い場所が憧れだったこともあって、そういうところを探していたんです。ただ、映像制作は画面で色を見る仕事なので、日光が反射してしまうと良くないんですね。オフィスを選んでいるとき、そこに改めて気付いて。 なので、あえて窓のないこのオフィスを選びました。
 
暖かな照明が居心地の良さを演出してくれます 暖かな照明が居心地の良さを演出してくれます
 
ー内装にはどんなこだわりがありますか?
 
内装は知人の空間デザイナーに依頼しました。僕がクラフト系や倉庫みたいな雰囲気が好きなので、そういうイメージを。あとはアメリカのポートランドに行ったことがあって、そういった要素も混ぜ込んでもらいました。
 
撮影機材と野外撮影に必要なキャンプ道具が詰め込まれた棚 撮影機材と野外撮影に必要なキャンプ道具が詰め込まれた棚
 
ーちなみに田村さんのデスクは…?
 
一番端っこです。端っこじゃないと落ち着かないんです(笑) 自分のスペースにはこだわりがあって、それに合わせてレイアウトしました。
 
田村さんのデスクは写真中央奥のスペース 田村さんのデスクは写真中央奥のスペース
海外進出を目指すための、映像制作の旅とは
ー会社のホームページは英語訳が付いていたり、作品にも英語字幕が入っていて、海外にも通じるように作られているように感じました。
 
そうですね。近いうちにオランダ、デンマーク、ポートランド辺りを回って仕事をしていきたいと思っています。ただ、いきなり海外に行って仕事が順調に回るわけではないので。
 
こちらも撮影機材。数百万円もする高価なものもあるそうです こちらも撮影機材。数百万円もする高価なものもあるそうです
 
最初はボランティアでも良いので、実績・ポートフォリオを作って広げていきたいんです。僕は何をやるときも“犠牲をどう払うか”ということを考えていて。何事も犠牲を払わないと前に進めない、と考えてしまう癖があるんです。自分はそんなに恵まれた人間ではないと思っているので、出せるものは自分から削り出していくしかないなと。
 
ー海外進出をかなり具体的に構想されているんですね。
 
僕が改めて映画を作るとしたら、有名な俳優やアイドルが出演するとか、そういうものにはならないと思っているんです。もっとアクの強い作品というか。それがフラットに評価される場はどこかと言ったら、日本ではなくて海外なのかなと。まず海外できちんと評価されて、日本に持ち帰って来るぐらいの腹づもりでやらないと、追いつけない。
 
ー近々、映像に関する勉強会を開きたい、というお気持ちがあるそうですね。
 
映像というより、クリエイティブに関する勉強会をしたいと思って計画しています。最近お客様が「こんなことを考えているんですけど、映像のことが全く分からなくて」っていう枕詞を必ずおっしゃるんです。それなら、分かるようになれば話が早いのにって思って。ただ、それも簡単な話ではないので。
以前デンマークに取材に行ったときに見たんですが、高校で映像教育に関する授業が必修科目としてあったんです。またオランダでは、5歳位の子どもたちがiPadとかで当たり前に映像編集をしていて。それを見たときに、日本とはそもそものレベル感がちょっと違うなと。
 
ーなるほど。子供のころから映像に関しての専門的な教育があると、確かに差は出るかもしれないですね。
 
例えば、行政でも民間でもどんな世界でも、”デザイン”っていうものは共通して必ずあるわけじゃないですか。そんな中で映像を利用するというのが”普通”になった、ワードやパワポの体裁を整えるのと同じように映像の質を誰もが担保しなくてはならなくなった世界で、それに対する知識をつける、そういう文化を作らないといけない、と強く感じたんです。
 
単純に仕事をこなすだけでなく、その先まで見つめている 単純に仕事をこなすだけでなく、その先まで見つめている
 
色々な事例を共有したいんです。そして、事例に対して「こういう技術を使ってます」とか、最終的に「だいたい幾らくらいで出来ます」というところを説明して。映像制作の予算の明細がクライアントに対してブラックボックスになっているというのは、例えば不意の修正があった時に、皺寄せが実作業をしている僕らのところに来てしまうのです。僕は働いた以上のお金は要らないですし、気持ちの繋がっていない人にサービスもしたくない。
 
ーやはり業務をスムーズに進行したいということが強いですか?
 
そういう部分もありますが、それよりも”作家然としている人たちが生きやすい社会”を作りたいということが強いですね。
 
ー作家のため、とは?
 
僕の周囲にはパートナーとして沢山のクリエイターがいます。ミュージシャンやアクターやダンサーや、カメラマンや照明や、挙げたら切りが無いですが、彼らが将来の食い扶持に不安を抱くこと無く、自分たちのスキルを磨いていくことに全力を傾けられる世の中になってほしいのです。そういう意味ですと、あくまで印象ですが海外の現場の方が進んでいるように感じています。
 
オフィス奥にはキッチンスペースと小さなミーティングスペース オフィス奥にはキッチンスペースと小さなミーティングスペース
 
だから海外とシームレスに繋がるためにも、きちんとした映像やアートやクリエイティブの文化を作っておきたいんです。それぞれの個性、つまり哲学が乗るような作品を作り、それが認められる文化。それぞれの作家が差別化され、それによって作家全員に価値が生まれるような世界観。勿論そこにはクオリティーというものが絶対的に必要ですが。なので犠牲を払ってでも背伸びしたインデペンデントな作品制作を必死に行っているのです。正しいことかは分かりませんが、何もしなければ何も変わらないことだけは確かなので。
 
ー田村さんの新たな作品には期待したくなります。
 
最終的に、僕は映画がやりたいんですよね。元々は映画分野の出身なので。ただ、今やろうとすると会社の経営を傾ける覚悟が必要になるかもしれないという…(笑) でも、高価な撮影機材を買ったり、仕事とは別のオリジナル作品を作り続けているのは、それが結果的に大きな仕事に繋がっているからというものあるんです。作っている時期は大変ですが、結果的にそれが何倍にもなって返ってくる。
 
ーそうなると、オフィスも拡張していく?
 
今のオフィスにはかなり満足しているんです。こうしたソファスペースも、こういう風にインタビューなどで使えたり、打ち合わせにも最適です。今は会社を大きく、というよりも作品の規模を大きくしていきたいですね。”良い物を作りたい”という気持ちが、常に変わらず先にあるんです。
 
ラフな雰囲気でしたが、時に真剣な眼差しで答えてくれました ラフな雰囲気でしたが、時に真剣な眼差しで答えてくれました
 
Editor's Note
「自分は経営者ではない」とまでおっしゃっていた田村さん。彼自身も作家として活躍されていて、クリエイティブに対するこだわりが徹底しているようでした。コンパクトなオフィスでも必要なものが全て揃っていて、仕事に対してもスピーディーに行動できる。これから世界へ羽ばたいていく準備も万全のようです。
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yasuyuki sugawara
神奈川県横浜市生まれ。Web制作会社で編集・ディレクターを経てフリーライターへ転身。2013年から、インディー音楽Webマガジン「P.S.magazine」を運営。Webと音楽には強いです。