連載『組織の運命はスペースで変わる』第3回

具体的なスペースづくりのポイント
部屋サイズでできる工夫として全部で22のアイディアが紹介されているが、その中で筆者が気に留めた、なるほどと思う考え方を以下に紹介する。
 

オープンなワンルーム

空間はオープンなワンルームとし、区切る部屋は最低限にすることが望ましいとされている。すべてのプロジェクトに注がれるエネルギーを肌感覚としてシェアすることで全員のエネルギーレベルが高まるからだ。ただし、床や壁の仕上げの切り替えで各スペースの境界ははっきり明示して、それぞれのスペースで想定されている行為が切り替わっていることをユーザーに知らせることも重要。仕上げが切り替わっているだけでも驚くほどにパワフルなパーティションとして機能するそうだ。例えば来客は仕上げの切り替えを見て「ここから先は入ってはいけないだろう」ということを感知する。いきなり床・壁仕上げから始めるのは難しいから、まずマスキングテープで目張りするところから始めるとよい、ということまでこの本には書かれている。

​見学ルートを想定しておく

投資家、クライアント、インターン、就職希望者そしてメディアもオフィスには見学にやってくる。きっちり線引きをして入り込まれすぎないようにしつつ、拒絶しすぎない視覚的なオープンさを保つ。床仕上げを切り替えたり、腰の高さまでの家具で区切ることが効果的だ。例えばプログラマーやデザイナーなど集中した作業をするべき人は見学ゾーンから遠くにした方がよいだろうし、ある組織では見学ルートのすぐ近くにCEOのデスクを置いて、来客にPRをすばやく始められるようにしているようだ。また、常に見られ得るということがワーカーの意識を高める。これはまさに企業文化をどう見せたいかを決める動線計画である。

​オフになる場所をつくる

dスクールには、「黒い部屋」という、暗くて少人数しか入れない部屋がある。ここではリラックスした姿勢しかとれず、電源もLANもない、しかも靴を脱がないと入れない。オープンなコラボレーションを重要視するからこそ、そこから逃げれる場所を用意する。オフィスの中に作るスペース的余裕がないと思う時も、思い切ってこのようなサポートスペースに投資すると効果が上がる場合もある。
 

​アンカーとなる場所を決めておく

即興性、可変性がスペースに求められる基本的な特徴だが、固定しておかないとメンバー全員が混乱してイライラしてしまい効率が落ちる要素がある。特に常に固定しておくべきなのはコピー機の位置。オフィスユーザーほぼ全員が使う要素であるためちょっとの移動でもすぐに混乱と衝突を生んでしまう。他にはウォーターサーバー、コーヒーサーバーの位置、キッチン(ない場合も多いだろうが、コミュニケーションの密度を高めるためには抜群の装置)の位置などがオフィススペースの「アンカー」となりうる。​

フォトブースをつくる

商品や社員やさまざまなものを写真に撮ってすぐWEBにアップする必要に迫られることは多い。だから、想定される撮影に対応したスペースを用意しておこう。カッチリしたフォトブースを確保するのが難しいときも、例えば撮影用の真っ白い壁を部分的に用意したり、無垢フローリングのカフェ風の休憩スペースがあれば、そこでモノを撮ってもサマになる。場合によっては動画の撮影(YouTubeにアップしたり)が必要なこともあるだろう。その場合はマイク等の音響関係の設備も必要なのでスペースとしてしっかり場所を用意する必要が出てくる。
スペースの一部となる便利グッズ
“Make Space”には、ホームセンターで買ってきた材料で簡単につくれる家具のアイディアが、どのホームセンターで何を買ったらできるかというところまで寸法付きで示されている。日本ではそもそも材料の調達先から調べ直さなければいけないが、これをヒントにスペースを構成するツールづくりを考えることができるようになっている。本書にはこのような33のアイディアが紹介されており、そのうちの一部を紹介したい。

​ホワイトボード

どんなところにあってもホワイトボードは便利だ。思いついたらすぐに書けるし、書いたものはすぐに全員が見ることができる。テーブルの天板にホワイトボードを貼るのもいいだろうし、持ち運べるサイズのホワイトボードが重宝される場合もある。パーティションが必要な場所に、パーティションとホワイトボードを兼ねた可動のパネルを設けるのもいいかもしれない。ホワイトボードは市販のものは高価なので、dスクールではシャワーボードをいたるところに多用しているが、これに相当するものは、おそらく日本のホームセンターでは売っていない。市販品は足がスペースをとりスタックできないのが難点だ。

​プロジェクター

プレゼンテーションでプロジェクターをつかうことはよくある。しかしプロジェクターとスクリーンは空間を固定してしまいがち。そこで、スクリーンごとキャスターで移動できるコンパクトなプロジェクションユニットがdスクール用に開発されている。単焦点プロジェクターを半透明の板の裏に設置してキャスターを付けただけのシンプルなこのツール。スペースの可変性を高めるためにプロジェクターは超単焦点のものがおすすめだし、半透明の素材はそれが何であれ簡易のリア打ち用スクリーンになる。
 

​BGM

実は意外に重要なのがBGM。行うワークに応じてふさわしい音楽を決めておくのもよいだろう。企業の文化がダイレクトに表現されうるし、ヘッドホンして作業する「隔離状態」の人が減ってコミュニケーションを行いやすい環境を促すことができる。

​サイン

センスが最も問われる。企業のロゴとの関係も考慮する必要がある。また、床・壁・天井のゾーニングの明示も含めて、空間の形を変えることができない場合が多いオフィスインテリアにおいて視覚的に意図を伝達する手段は空間の印象を決める支配的な要素になり得る。

​照明

調光・調色してさまざまなシチュエーションに対応できるようにすることが肝要。昼白色の集中して作業できる白い光の状態と、リラックスして考えられる電球色の温かみのある光の状態を切り替えれることで、同じ床面積のスペースを2倍有効利用できる。雰囲気あるパーティも可能に。調光・調色器は少々値が張るが、最初の投資に見合うメリットは確実に享受できる。

​IDボード

プロジェクトメンバーのポートレートと名前を掲示するボード。見学に来た投資家等へのアピールにもなるし、メンバーのチームへの帰属意識も高まる。企業文化が表出する部分として、デザイナーに相談してお金と時間をかけても確実に造る価値がある。
・dスクール公式HPのトップページのスライドショーで、このIDボードの写真が出てくる。具体例として参考になるだろう。:http://dschool.stanford.edu/
まとめ:企業の運命はスペースで変わる
さて、以上3回にわたるコラムで、”Make Space”に学ぶ、企業文化を醸成するスペースづくりのノウハウについて、そのおおまかな概略をつかむことができただろう。ここで紹介したのは本書の内容のごく一部なので、興味を持たれた方はぜひ実際に手に取って読んでいただくことをお勧めする。日常業務に役立つことから、オフィス移転の際に検討すべきことまで幅広く学びが得られるだろう。
 

”スペースを見れば使い手の文化がわかる 
 

 チームスプレーでイノベーションを起こすためには、人間をエンカレッジするツールとしてスペースづくりを考える必要がある。そしてさらに重要なことに、結果的に出来上がったスペースはその組織そのものを表現するメディアになる。企業文化をつくりあげることが組織にとって重要であることが指摘されている昨今、その具体的な表現であるスペースの在り方に経営者は意識的になりはじめている。自分の組織はどうあるべきか。本コラムが、経営者はもちろんチームメンバー全員が組織の意識を高めることを、忙しい日常業務の合間に少しでも考えるきっかけになれば幸いです。
 
 
補足:Make Space とは
“Make Space” (John Wiley & Sons, 2012)は、2012年に出版され、同年に邦訳された書籍。副題にあるように、“スタンフォード大学dスクールが実践する創造性を最大化する「場」のつくり方”についての本であり、“クリエイティブなコミュニティのカルチャーと習慣を、スペースによって形づくるための手引き”だ。企業文化を創り上げることが死活問題となっている今日の企業のオフィスづくりに大いに参考になる。
・Make Space 著者:スコット・ドーリー+スコット・ウィットフト、監修:イトーキ オフィス総合研究所、訳:藤原朝子 発行所:CCCメディアハウス  https://goo.gl/YL4u5A
 
著者プロフィール
佐藤 桂火 (さとう けいか)
建築家
1982年大分県生まれ/2005年東京大学卒業/2006年東京大学大学院在学中、セント・ルーカス大学交換留学生 / 2007年同大学大学院修士課程(難波研究室)修了後、平田晃久建築設計事務所/ 2014年ARTENVARCH設立 /現在、ARTENVARCH共同主宰 http://artenvarch.jp/
 
主な作品=《GLACIER FORMATION》(Milano Salone 2015)、《Airy Walk》(2015)、《Diagonal Boxes》(2016)、《京都の三段屋根》(2016)ほか
 
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佐藤 桂火
1982年大分県生まれ/2005年東京大学卒業/2006年東京大学大学院在学中、セント・ルーカス大学交換留学生 / 2007年同大学大学院修士課程(難波研究室)修了後、平田晃久建築設計事務所/ 2014年ARTENVARCH設立 /現在、ARTENVARCH共同主宰 http://artenvarch.jp/