連載『組織の運命はスペースで変わる』第3回

第3回:企業文化を醸成するスペースづくり ~”Make Space”に学ぶスペースづくりの文法~

スペースは組織のボディランゲージであり、組織のカルチャーを(例え望んでいなくても)表現することになる。本コラムではベンチャー企業の経営者の間で話題の書籍"Make Space"を読み解き、企業文化を醸成するツールとしてのスペースづくりについて、3回に渡りコラムで紹介する。その第3回目。

本コラム第1回目では、"Make Space"を参照する価値とその背景を、第2回目ではスペースづくりの基礎的なコンセプトについて解説した。第3回目となる今回は、スペースづくりの具体的なアイディアやツールについて紹介していく。
 
・著書:Make Space 著者:スコット・ドーリー+スコット・ウィットフト、監修:イトーキ オフィス総合研究所、訳:藤原朝子 発行所:CCCメディアハウス

MAKE SPACE メイク・スペース スタンフォード大学dスクールが実践する創造性を最大化する「場」のつくり方

・参考リンク 企業文化の重要性:

企業文化をぶち壊すな / Startup Culture from Takaaki Umada

スペースづくりの基礎となるインサイト
『自分でやってみるに勝る経験はないけれど、読者の皆さんがこの「インサイト」を活用して、ぼくらが発見するために苦労した経験を少しでも軽くできたらと思う。』(本書より引用・以下省略)
 
デザイナーであれば、これらのインサイトを頭に入れながらデザインをすることは多いに役立つし、経営者にとっても、スタッフをエンカレッジするための具体的な方法を考える助けになる。一流のアスリートも、毎日基礎練習から始める。基礎を大切にしよう。以下にこの「インサイト」をいくつか紹介していく。

​“Design for Primates.” 人間は賢いサルだ。ならば体を動かし続けさせる方法をデザインせよ

人間はちょっとだけ進化したサルだ。脳だけ使ってじっとデスクに座っているのは生物として不自然。いろんな動き、姿勢に伴って心理状態が変わる。それを上手に利用してプロジェクトの段階に合った姿勢を意図的につくろう。例えばブレインストーミングにふさわしい高いエネルギー状態を保つためには、座ることから解放される必要がある。

​“Context Is Content” スペースを見れば使い手の文化がわかる。

すぐに手に入る道具は何か、何が使える環境なのか、屋内なのか屋外なのか、騒がしいのか静寂なのか。使い手はスペースの発しているメッセージを読み取る。使い方にふさわしい環境を設定しよう。

“Design with Multiple Situations in Mind” ほとんどのスペースには複数の用途がある。

ひとつの部屋はふつう複数の用途に使われる。ダイニングはホームオフィスになるしキッチンはパーティでは人があつまる場所になる。ただ、それぞれの用途のために全体をデザインしなおす必要はない。大切なのは、それぞれの使われ方を許容するスペースづくりにしておくこと。

​“A Little Prep Goes a Long Way” 作業に取り掛かる前に時間を割こう。

たとえば授業を始める前に、座席の配置と向きを準備しておくだけでスムーズに学生に参加を促すことができる。人とモノの配置、向き、空気感やムード。それをどれくらいの時間維持したいのか。照明を落とすかライトの数を減らすか、窓を開けて光や騒音を取り入れるか。

​“Start with What You Have.”まずは手近にあるものを活用すれば、すばやく安上がりにできるし、仲間に見てもらって次への弾みをつけられる。

すぐ始めるために、小さく始める。小さく始めて、どんどん活発に大きくしていく。チームで動くためにはとにかく行動することから始めることが一番だ。すぐに始めたくなる気持ちにさせるスペースづくりをしよう。
スペースづくりの文法
『スペースデザインには独自の文法があって、それを微調整していくことで、望ましい仕事のやり方を奨励することができる。』
 
次に、スペースづくりの文法=「デザイン・テンプレート」が本書には示されている。大きく4つのカテゴリーに整理され、「プレイス」と「プロパティ」はスペースのゾーニングとキャラクターに関するもの。「アクション」と「態度」はそのスペースで誰が何をするかに関するもの。前2者は空間をデザインする立場の方にとって、後2者はチームをファシリテートする立場の方にとってなじみ深いもの。詳細は実際に”Make Space”をご覧頂きたい。
人の行動と思考と姿勢の関係を把握する
「デザイン・テンプレート」の「アクション」は特に興味深い。人は姿勢・向きによって思考やコミュニケーションの質を変えるので、プロジェクトのフェイズに応じた思考のモードに合わせて望ましい姿勢・向き・場の雰囲気を設える必要がある。
 
例えば、ソファに深く沈み込んでリラックスしていると人は分析的・批評的になり、他人のアイディアを聞いて欠点を探すようになる、と本書は主張する。この思考のモードは、プロジェクトをフォーカス(集中)していくフェイズに向いている。前のフェイズで出てきたさまざまなアイディアのひとつひとつの可能性を点検し、つなぎあわせ、現実の社会において実装可能かを検討する時の思考のモードだ。
 
逆に、立って周りの雑音や視線に適度に晒されていると、アクティブにいろいろな制約を外して発想しやすくなるという。あえて座り心地の悪いスツールを使ったり、窓をあけて風や雑音を入れたり、隣のプロジェクトチームの様子が見えたりする方がエネルギーレベルを高められるし、ちらかったテーブルの上の何かを感知していろいろなことを思いつくようだ。これは、実現性を一旦度外視して、無謀に思えるアイディアを出し続けて拡散させるフェイズに向いている。こういう時は、全然関係ない話をウロウロ歩きながら話したり、ストレッチしながら考えたりするとよい。
 
この集中と発散の繰り返しは日常業務で頻繁に交互に起こることは読者の皆様はよくご存知だろう。また別のシーンでは大勢で、親密なデリケートな会話が必要なこともある。この時はキャンプファイヤーのように低い姿勢で車座になってみんなで中心に向き合って話すとよい。上下関係のないフラットな関係であることが少し微妙でウェットな話し合いをしやすくする。但し、この状態をキープできるのは30分程度だと思った方がよい、ということまで本書には書かれている。
 

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佐藤 桂火
1982年大分県生まれ/2005年東京大学卒業/2006年東京大学大学院在学中、セント・ルーカス大学交換留学生 / 2007年同大学大学院修士課程(難波研究室)修了後、平田晃久建築設計事務所/ 2014年ARTENVARCH設立 /現在、ARTENVARCH共同主宰 http://artenvarch.jp/