連載『組織の運命はスペースで変わる』第2回

第2回:企業文化を醸成するスペースづくり ~スペースを見れば使い手の文化がわかる~

スペースは組織のボディランゲージであり、組織のカルチャーを(例え望んでいなくても)表現することになる。本コラムではベンチャー企業の経営者の間で話題の書籍"Make Space"を読み解き、企業文化を醸成するツールとしてのスペースづくりについて、3回に渡りコラムで紹介する。その第2回目。

本コラム第1回では、"Make Space"を参照する価値とその背景を、スタンフォード大学dスクール、design thinking、IDEO創設者デイヴィッド・ケリーなどのキーワード・キーパーソンを紹介しながら解説した。二回目となる今回は、その内容について読み進める。
”スペースを見れば使い手の文化がわかる”
『Space is the “body language” of an organization. ・・・スペースの形、機能、仕上げは、そこにいる人のカルチャー、行動、優先順位を反映する。ということは、スペースデザインはカルチャーを翻訳し、つくりあげる仕事でもある。』(Make Space 本文p38より引用) 
 
“Make Space”で主張されていること。それは、チームプレーでイノベーションを起こすためには、人間をエンカレッジするツールとしてスペースづくりを考える必要があるということだ。そしてさらに重要なことに、出来上がったスペースはその組織そのものを表現する(してしまう)メディアになる。企業文化をつくりあげることが組織にとって重要であることが指摘されている昨今、その具体的な表現であるスペースの在り方に経営者は意識的になりはじめている。
 
・著書:Make Space 著者:スコット・ドーリー+スコット・ウィットフト、監修:イトーキ オフィス総合研究所、訳:藤原朝子 発行所:CCCメディアハウス

MAKE SPACE メイク・スペース スタンフォード大学dスクールが実践する創造性を最大化する「場」のつくり方

・参考リンク 企業文化の重要性:

企業文化をぶち壊すな / Startup Culture from Takaaki Umada

投資家がオフィスにフラッとやってくることもある。クライアントをためらいなく呼べるスペースがあることは経営者に心理的な強さ・自信をもたらし、スタッフはその組織に所属することに誇りを持つようになる。それは髪型や服装がキマっていれば自信をもって振る舞えることと同じで、うまくいけば組織にメリットをもたらす。人間が強くあることをサポートするためにスペースは機能しうるのだ。そして強くなったメンバーたちは、誰に強制されなくても自発的にその組織のよいイメージを外へ向かって発信し始め、スペースも社員もその組織の広告塔となる。
よく使われるスペースこそがいいスペース
クリエイティブなコミュニティのカルチャーと習慣を、スペースによって形づくる。人間を中心におき、スペースづくりをコラボレーションのツールとしてとらえる。この考え方は、本書全体に通奏低音として流れている。序文で、design thinkingの提唱者にしてdスクールの共同創設者であり、デザイン会社IDEOの創設者でもあるデイヴィッド・ケリーは述べる。
 
『気づいていないかもしれないが、私たちは「どのように働くべきか」について空間が発するメッセージを受け取り、それに従っている』 
『教室であれ、大企業のオフィスであれ、スペースはイノベーションとコラボレーションの道具として考えるべきであって、最初から決まっている変更のきかない条件ではない。それは仕事においても人生においても、豊かで意味のあるコラボレーションを可能にしてくれる貴重なツールなのだ。』
 
アフォーダンス理論を思い起こさせるこの主張からは、ユーザーとスペースの相互作用を読み取り、人を刺激するスペースのデザインに活かそうという姿勢が伺える。よく使われるスペースこそがいいスペースなのだ。
 
中心は人間。強い意志を持った人間。
もちろんスペースは、そこで行われる人々の行動によくフィットするようデザインされていることが必要条件だ。しかしスペースが一方的に人間の行動を決めることはなく、ユーザーが空間に意味付けをすることで空間の性質が決まる。例えば学食であるサークルがその一角を「専用席」として占有していれば、その近辺にはそのサークル以外の人は自然と近寄らなくなる。カップルが鴨川の河原で等間隔に並ぶのは、先にいたカップルがその空間の持つ意味を変えていて(2人の親密な空間を邪魔しないでほしい)それを読み取った結果起こる現象だ。
 
人が空間の意味をつくりあげるからこそ、オフィススペースにおいても、メンバーにはコミュニティ全体のクリエイティビティを刺激するために行動することが求められる。実際にdスクールの運営にあたっては、参加者たる「創造的市民」に求める規範が明確に示され、「全員が管理者だ」と毎回口酸っぱく指導しているようだ。スペースのデフォルト状態をわかりやすく掲示し、動いてないプロジェクトのスペースは初期設定に戻し、活動中のプロジェクト・新しいプロジェクトを妨げないようにしている。(ちなみに毎回片づけるルールには、一度思いついたアイディアに固執しなくてすむようにするという意味もあるようだ。)
 
そういうわけで、学校の教員やオフィスの管理職に向けたインストラクションとしても本書は読める。オフィスがdスクールのようになるのであれば、ファシリテーターのような存在が必然的に生まれるだろう。参加者に要求されるモチベーションの高さは相当なものだが、誰もが参加できるようにするにはチームリーダーの強さが不可欠というわけだ。
 

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佐藤 桂火
1982年大分県生まれ/2005年東京大学卒業/2006年東京大学大学院在学中、セント・ルーカス大学交換留学生 / 2007年同大学大学院修士課程(難波研究室)修了後、平田晃久建築設計事務所/ 2014年ARTENVARCH設立 /現在、ARTENVARCH共同主宰 http://artenvarch.jp/