連載『組織の運命はスペースで変わる』第1回

 
第1回:企業文化を醸成するスペースづくり ~”Make Space”に学ぶ意義~

スペースは組織のボディランゲージであり、組織のカルチャーを(例え望んでいなくても)表現することになる。本コラムではベンチャー企業の経営者の間で話題の書籍"Make Space"を読み解き、企業文化を醸成するツールとしてのスペースづくりについて、3回に渡りコラムで紹介する。その第1回目。

 企業文化を醸成する。そのためのスペースをつくる手引き
“Make Space” (John Wiley & Sons, 2012)は、2012年に出版され、同年に邦訳された書籍。副題にあるように、『スタンフォード大学dスクールが実践する創造性を最大化する「場」のつくり方』についての本であり、『クリエイティブなコミュニティのカルチャーと習慣を、スペースによって形づくるための手引き』だ。企業文化を創り上げることが死活問題となっている今日の企業のオフィスづくりに大いに参考になる。
 
・著書:Make Space 著者:スコット・ドーリー+スコット・ウィットフト、監修:イトーキ オフィス総合研究所、訳:藤原朝子 発行所:CCCメディアハウス
MAKE SPACE メイク・スペース スタンフォード大学dスクールが実践する創造性を最大化する「場」のつくり方
 
・参考リンク 企業文化の重要性:
 
“Make Space”には、”design thinking”に基づくスペースデザインと運営のノウハウが詰まっている
"design thinking"を提唱したことで有名な、デザイン会社IDEOの創設者であるデイヴィッド・ケリー。この本には、彼が2005年に共同創設した米スタンフォード大学・dスクール(正式名称:ハッソ・プラットナー・デザイン研究所)運営での試行錯誤の結果手に入れた、スペースづくりに関するインサイト(洞察)がぎっしり詰まっている。
なぜ今"design thinking"に価値があるとされているのか
"design thinking"はオフィス運営のみならずイノベーションを生み出す手法として注目されている。これは、観察やインタビューによって事実を抽出し、チームで意見を出し合って洞察を得て、隠れたニーズを掘り起こし、プロトタイピングしながらコンセプトとアイディアを練っていく仕事のプロセスであり、意思決定の方法である。そして、そのためにチームスポーツのように人が集まってプロジェクトに臨むことが前提となっている。そのためオフィスだけでなく学校、交流スペースなど「人が集まって1つのことに取り組む」スペースの在り方、プロジェクトの進め方について新しいインサイトをもたらしてくれる。その意味で、経営者、教員など人間の集団をファシリテートする立場の人全員にとって読む価値があると言える。
 スタンフォード大学dスクールとは?
dスクールとは、スタンフォード大学の全ての学部から集まるさまざまな専門と素養をもった優秀な学生たちが、デザインの本質=”design thinking” を学びながら、チーム単位で様々な現実世界で社会課題を解決するプロジェクトに携わる、学部や専門領域を超えたコラボレーションのためのスタジオ。dスクールの授業運営およびスペースの設計自体が”design thinking” に基づいてなされている。専門分野が異なる人々がチームをつくるというところがポイントだ。
 

dスクールのイントロビデオ。デイヴィッド・ケリーも登場。
・スタンフォード大学dスクールHP:
http://dschool.stanford.edu/ 
・JetBlueのBonny Simもdスクールについてコメントしている(ページ中段):
http://dschool.stanford.edu/learning-experiences/


専門もバックグラウンドも異なる学生が集まる様子は社会の縮図のよう。しかし、彼らが一緒のプロジェクトに取り組むことは、口で言うほど簡単ではない。最初は共通の話題もないような彼らが、チームとして社会課題に挑戦するプロジェクトに参加できるようにするためには、人の力と空間のサポートの両側から考えることが求められる。
よいユーザーとよいスペースの両輪
『クリエイティブなコミュニティのカルチャーと習慣を、スペースによって形づくる。』『人間を中心におき、スペースづくりをコラボレーションのツールとしてとらえる。』(本書から引用・以下省略)
 
これを実践するには、スペースはそれなりのしっかりした環境として意図的にデザインされなければならない。
 
『使い手が自由にレイアウトを変更できること、アイディアをすぐに書き出して全員で共有できること、つくりながら考えるための道具があること、そしてフラットな人間関係と自由な発想を奨励するような環境が必要となる。』
(巻末解説より引用)
 
つまり、卓球台とホワイトボードをオフィススペースにおいて見せかけだけを真似ただけのオフィススペースではない。あくまで人間が中心であり、プロジェクトに参加するメンバー全員の意識の高さは必須となる。
 
『クリエイティブなスペースはバンコク郊外の市場に似ている。あるプロジェクトとアクティビティが、列車のようにスペースを一時的に占領する。-中略―すぐに作業に取り組めるスペースをつくろう。自分の作業が終わったら撤去して、次のクリエイティブなチームにスペースを譲る。』
 
dスクールはこの意味でまさにバンコク郊外の線路上の市場そのものだ。プロジェクト参加者全員がスペースの管理者だという意識をメンバーに徹底し、どんな新しいプロジェクトの始動も妨げないよう、休眠プロジェクトのスペースはコンパクトにたたむことが義務付けられ、スペースは常にクリエイティブな気持ちになれるように更新され続けている。よいスペースを維持することが結果的に自分たちに大きな恩恵をもたらすことを知っているので、人は意識高くスペースを維持更新し続ける。

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佐藤 桂火
1982年大分県生まれ/2005年東京大学卒業/2006年東京大学大学院在学中、セント・ルーカス大学交換留学生 / 2007年同大学大学院修士課程(難波研究室)修了後、平田晃久建築設計事務所/ 2014年ARTENVARCH設立 /現在、ARTENVARCH共同主宰 http://artenvarch.jp/